読み終えた。
気分的にはあっという間に読み終えてしまった。著者が既に故人なので、もうこのような本が出版されるコトがないというのが実に残念だ。
先ずはモノゴトを見つめる、というよりも観察とか観測という言葉を用いた方が、より実感が伴うかもしれないが・・・視点や立脚点がハッキリとしているコト、或いは定点観測のように固定されているコト・・・視座と言ってもいいかもしれない点が無ければ、論述が定まらないという制約から逃れられないのは致し方ない。
その視座があまりにも多視点となると、論述が困難になるし、そもそも読み手が難儀する。コレが現実を把握して説明するときに直面する言語の限界だから・・・仕方ないけれど。
結局は「免疫系」という立場から見ていくと、このような視界が拓けていくという内容にはなる。ただし、頭でっかちの人間という動物の性質上、ついつい脳味噌主体にモノゴトを考えて意味づけていく習慣になっているから、それ以外の身体(肉体)の問題が希薄になりがちだと思う。そのアタマではないトコロから問題提起される点が、多田富雄さんの著作の興味深い視点だと思う。
案外、人間という動物の意識は身体的(肉体的)感覚によって支配されているんだけどね。
それは本気で絵を描いてみれば実感出来るけれど。それは本気でスポーツに取り組めば実感出来るだろうけれど。さらにそれは工作や料理、音楽、演劇だってそうだけれど。
そもそも、脳味噌主体に位置付けてみたところで、神経細胞の集合体である脳味噌ばかりが神経細胞の在処ではない。きくトコロによれば腸管には脳に次ぐ量の神経細胞があるというし、末梢神経だって神経細胞だ。というコトで、脳味噌だろうが末梢神経だろうが神経細胞である以上、身体全体に渡って脳味噌が広く分布しているという見方だって出来るのではないだろうか?
つまり便宜上、脳味噌と中枢神経、自律神経、末梢神経とか・・・他にも分類があるのか知らんケド、分けて扱わないと煩雑になるだけ・・・という人間という動物がモノゴトを把握する都合でしかないのでは。
というワケで、父と子と聖霊という三位一体ではないが、意識も肉体も、その他諸々も三位一体以上に一体で分けられないというのが現実の人間という動物の在り方だろう。
でもまあ、免疫系が脳味噌を非自己と扱ってしまうキメラのコトが、「免疫の意味論」でも書かれたように、この「生命の意味論」でも触れられていた。実にこのキメラ問題は、始めて読んだ時にインパクトがあったけれど、今回もまたしみじみと、記憶と意識の砦である脳味噌を否定する免疫系という話には再確認的なインパクトがあった。
ここで付箋を貼った幾つかの箇所を引用する。
・・・サイトカインのキーワードとしては、冗長性、重複性、だらしなさ、多目的性、不確実性、曖昧性などあまり自然科学では用いられない言葉が当てられているのだ。p.21
この分野のトーシロー(素人)であるワガハイとしては、何とも曖昧なサイトカインの性質に、こりゃ単線的な思考では扱えないシロモノなのだと思った。複眼的というか多視点・・・すぐにセザンヌの絵画を思い出し、キュービズムを想起するけれど・・・案外これらの作品を分析的に鑑賞すると面倒だからねぇ。その点、一点透視図法のユトリロはワッカリ易いよなぁ(やはり美術領域に引き寄せて、感覚的に把握するワガハイという動物である)。
バーネット(オーストラリアの免疫学者、サー・マクファーレン・バーネット)にとって免疫系は、構成要素としての多様な免疫細胞のクローンが生存をかけた競争を繰り広げている自然であった。細胞は突然変異によって進化し、さらに選択淘汰が行われて、個体内に新しい生態系を作り出す。p.231
ディテールが全体と密接に絡んでいる文章の一部を、引用するのは難しい。引用しても、その部分だけで幾らか理解出来そうなトコロを選んでいる。上の箇所などは論点の中核ではないけれど、「個体内に新しい生態系を作り出す」という言葉に触発されるものがあった。自分の身体(肉体)が自然だというコトもまた、日常の中で忘れてしまうコトだから。
人間という動物は、人間がつくり出したものではない・・・んだよなぁ。それを我がモノとしようとするから無理が生ずる。
・・・首都機能移転というとき、目的と効果のみが先行して都市の自然発生的生理条件を無視したならば、ムッソリーニが人工的に作ったエウルのように、生命活動を持ちうるまでには長い時間がかかってしまうのではないだろうか。メッセとかビジネスタウンとか、低次の化学反応的な代謝しかない都市が十分に機能しないことはすでに経験ずみのはずである。p.241
終章の10章では、都市や社会に関して免疫系の視点から論じられている。というか、やっぱり多田さんが「能」にのめり込んでいった感性が痛く感じられるトコロだった。
本日、2000字を超えたのでこの辺でお終いとする。
この本、誰にでもお薦め出来るとは思わないけれど、ワガハイ的には是非!と言いたい。